アン・マキャフリー
歌う船
友なる船
歌う船
アン・マキャフリー
船(宇宙船)、そうです。この物語の主人公は船自身。といっても普通の船であるはずはなく、頭脳船と呼ばれる存在です。身体異常を持って生まれたり、幼少時に体に大きな損傷を受けるもののその頭脳は健全な場合は金属殻に包れシェル・パーソンとしての人生を歩む場合があり、工場や都市や宇宙船の文字どおり頭脳として活躍するわけです。
女性であり、宇宙船であるこの主人公が遭遇する幾多の事件と、船に乗る人、運ぶもの、訪れる環境、同じ仲間たちなどとの心のふれあいを心理的面からも深く掘り下げた作品です。タイトルに在る「歌う」というキーワードが示すように、作中には音楽的表現が多く見られ更に音楽と精神面の関わりにもとても深く言及しています。
僅かに残る生態部分のメンテナンス時に使われると言うキーワードにしても音のピッチや抑揚に情報があるメロディそのものですし、宇宙船の機械部分から切り離され危機に陥った状況からの脱出の場面での描写なども歌詞やメロディや複雑な和音などによる心理操作を事細かに描いています。ある部分ではオペラの「ロミオとジュリエット」が題材ですし、「ボブ・ディラン」の名前も登場します。
音楽を主軸に扱った作品はほかに、コミックスですが「永野 護」(こちらは作者本人がもろにミュージシャン)の「フール・フォー・ザ・シティ」(ディランの名前と、音楽で大衆の心を開放するという描写)や、「萩尾 望都」の「百億の昼と千億の夜」(吟遊詩人とオペラ歌手が登場する時間と空間を超えた遠大なお話)、「木戸 恵」の「ヴァガボンド・フィッシュ」(歌の波動によりより高位へと導く)などにも登場します。(おっとみなコミックスばかりだ)
後書きにはこの著者が(女性です)コピーライターからオペラの制作演出に転身し、その後作家となったと書かれています。SFを読まない方にも自信を持って薦められる作品で、音楽に興味がある場合はなお一層楽しめることでしょう。この他の彼女の作品はロマンティックなファンタジーベースのものが多いようです。