ENTOVERSE
内なる宇宙 上、下
J. P. ホーガン
東京創元社
上) ISBN4-488-66317-6 C0197 \660E
下) ISBN4-488-66318-4 C0197 \660E
「星を継ぐ者」三部作の更に続編です。文庫で上下巻に分かれていますが併せて700ページ以上とかなりなボリュームになっています。まず冒頭に著者自らのメッセージがあります。 そして、物語の冒頭からいったいどこで話しに絡んでくるのだろうと言うようなファンタジー調の異世界の描写があり、他でも要所要所で登場します。
この作品も前作が出版されてからほぼ10年経っていますが、物語りは前作「巨人たちの星」の結末から何年も経っていないような続いたものになっています。このシリーズはなるべくならはじめから読んだほうが良いでしょう。と言うよりはじめっから全部読んでください。巻末の後書きでもそう勧めています。三部作三巻で1200ページ近くありそうでし、更に加えてこの上下巻ですからからなかなか大変でしょうけどその価値は大いにあります。
今回の舞台は地球外、それも太陽系の他惑星じゃなく他星系です。前作後半の架空戦争の相手の本拠地だった星に直接赴きます。既に「ガニメデのやさしい巨人」で他惑星へは既存の方法で時間を掛けて行っていますし、他星系へもバーチャルリアリティの上では訪れていますが、ここでは進んだ文明の成果であっと言う間に着いてしまいます。でもこの短いエピソードの間に物語の進行に絡む重要なキーが隠されているのです。(おお、これではミステリーみたいだ。)まあこの人の作品は謎解きみたいな側面もありますから、その時点では理解の彼方にあるものや状況が提示され、それを解きほぐして解決していく訳です。前作から引き続きバーチャルスペース、バーチャルリアリティは既知の事実で道具で日常(途中から合流した人にとってはそうでもない。そして、主人公グループに新たに加わったメンバーは話に大きく絡みます。)です。文明圏全体にまたがるコンピュータネットワークと、それ自身でも在る人工知能的存在も居ます。この存在自身は居ないと物語り自体が成立しませんが、それによって提供されるバーチャルリアリティそのものは道具として、手段として、至る所で活用されますがそれは主題ではありません。もっと違う奇想天外なものが登場します。実は冒頭のファンタジックな世界描写がそれなんですが、なかなかそうは結びつきませんよね。後はまぁお楽しみにしておきましょう。でももう少し駄目押ししておくと、今回は他星系が舞台ですが、そこから更に異世界へ赴くのです。ミクロコスモスとマクロコスモスのサイバースペース版ですかねぇ。プログラミングされた結果じゃなく、色々な相互作用の上での自然発生と言うところにすごいものを感じます。
毎度のことながら科学、社会、政治、宗教等多岐にわたるストーリーにはすごいものを感じます。これはそっくりそのまま現代の政治、経済、宗教等含めたあらゆる分野への痛烈な皮肉でも在るように感じます。でも、著者自身現在の社会の様子と人類の行く末には、憂いているものの失望はしていないようで、楽観的な見方をしているとメッセージに在ります。このシリーズ全体、そして他の著作でも言えますが、現実の人類が歩んできた道の再認識とこれからの進むべき道筋への著者からのメッセージでも在るようです。
本来ハードSFのジャンルに属するだろう作品群ですが、今回はファンタジーな部分も取り入れられています。サイエンスフィクションの分野では技術、法則、世界観等は科学考証(考証自体架空であっても)が出来るものでなければなりません。現実の科学技術を超えるものは新たな概念で説明できる必要があります。その新たな概念を創造するのは作家自身ですが、やはり既存の概念を打ち破るものであってもまったく絵空事ではSFから外れてしまいます。如何に緻密で巧妙な科学的、技術的設定が出来るのかもハードSFでは重要だと思いますし、楽しみのひとつでもあります。しかしその点ファンタジーはなんでも在りです。神秘現象、超常の力、魔法などと言えば片付きます。説明する必要はありません。理屈抜きに楽しめる訳ですね。(もちろん私はファンタジー系も大好きです。誤解無き様。)ホーガン自身何かのインタビューの折に将来ファンタジーを書くとしたら既存のものとは別なものになるだろうなと語っているようです。ハードSFに融合したファンタジックな世界。これもまたひとつの回答でしょう。しかもちゃんとSF的な背景説明もついています。そしてミステリー、こちらも緻密で巧妙な舞台設定やストーリー展開が要求されますね。簡単に判ってしまったんじゃ面白くない訳です。思い返せばシリーズ最初の「星を継ぐ者」は、月面で真紅の宇宙服を着た死体が発見され、それはどこの基地の人間でもない。と言うところから始まり、解いても解いても次の謎が沸いて来るのですから、これはもうミステリーですね。違う分野の作品としても読むことができる、と言うよりはより広い範囲の人に楽しんでもらえる可能性を持っていると思います。
将来書かれるかもしれないファンタジー系作品も楽しみでは在ります。元著はとても読みこなせませんが、終始最新刊を追っているわけではないので日本語訳された著作でまだ味読^H^H未読のものがかなりあります。あるいはその中にあるかもしれませんね。
冒頭に6ページに渡り著者自らのメッセージがあります。1986年に「DICON V(日本SF大会)」のゲストとして来日しているんですね。