ロバート・L・フォード
ロシュワールド
ロシュワールド
ロバート・L・フォード
これはハードSF、宇宙探検物です。目的地は「バーナード星」太陽系から約6光年離れた二番目に近い星系です。暗く小さな赤色わい星で、太陽になりきれなかった惑星規模の衛星群をもつ巨大惑星と、特に重要な探査対象である80kmという超近距離でお互いに公転しながら長円軌道を公転する二重連星の惑星です。ロシュの限界超えているが為に球体ではなく卵型に歪み、互いの大気も共有しうるという事細かな設定がされています。これすなわちタイトルの「ロシュ・ワールド」。(原題は The Flight of the Dragonfly )
比較的近いその星系までに到達する為の宇宙船の推進方法は、太陽光やレーザービームを使用した自身では主推力を持たない光帆船です。ゆえに加速減速の期間が長く片道40年という航行期間が設定されていて、更に探査活動に20年近くも要するという途方も無い物で、このため帰路の保証はされていません。しかも人生半ばに差し掛かる40代の隊員も居るという状況では寿命内に任務を全うすることは叶わず、ですがこの手の話によくあるコールドスリープなどは登場しません。寿命延長剤という薬が存在し老化を1/4に押さえます。しかし副作用として使用期間中は幼児レベルにまで知能が低下するという設定がなされています。これがまた話を面白くする要因にもなっているようです。
この話、出発前や主動力(推進力)が太陽系に在ることにより物語の途中にも登場人物が多い場面は登場しますが、しかし物語の主軸は宇宙船の中と目的地の星系です。全部で16人、ほぼ密室状態の話では登場人物は多い方みたいです。まあ宇宙船の運行管理のコンピュータや、探査ユニットなど尽く擬似人格を与えられていて個人用インターフェースを通じてしゃべりますから、登場人物に数えられなくもないですけど。おっと登場人物が少ないわけではありません。スライムゼリー状の現住生物達まで登場します。
そしてこの本の巻末にはストーリーの一部として恒星系探査の記録報告書が付いています。探査の結果や、宇宙船や探査機機器の構造の詳細や、レーザー推進システムの詳細、主要キャストの略歴や特徴などの資料が満載しています。著者自身博士号を持っているようで、科学考証にすきはなく既存の事実におおよそ沿った内容です。目的地の「バーナード星」にしても観測により惑星の存在が予測されていますし、ライトセール(光帆船)宇宙船にしても原理から構造まで実現可能とされています。著者自身による科学論文も各科学雑誌などに掲載されていますし、そういえば日本の科学雑誌でも掲載されていたのを覚えています。